資料室から酸っぱいニオイ!
事務所でお酢を製造する企業が増加中!?

ドアを開けたら酸っぱいニオイがツーン!
現在、こんな事件が急増しています。想像してください。いきなりお酢臭を胸いっぱいに吸い込んだ瞬間を。そりゃムセますよ。げふげふごほ。
「まさか……売上低迷に業を煮やした会社が醸造のサイドビジネスを!?」
いえいえ、実はもうちょっと深刻なお話です。謎のお酢臭事件に隠された秘密をひとつずつ解きほぐし、「企業情報喪失のリスク」についてご説明して参ります。

お酢のニオイの元をたどれ!

これまで寄せられた報告によると、お酢のニオイが立ち込めていた部屋にはある種の共通点があります。多くの事案では「開けた瞬間にキた」「まさかココで…」皆さん意表を突かれてダウン寸前に追い込まれたようです。
なかなか凶悪なトラップです。
では、まずその「異臭部屋」がどんな部屋だったのか確認してみましょう。ここに大きなヒントが隠されていることは明白なのです。

お酢のニオイが立ち込めていた部屋

資料室、倉庫室、資材室、マイクロフィルム室など

ニオうのは「マイクロフィルム」!?

すべての部屋の共通項は「しまいこむ場所」であること。あやしいニオイがプンプンしますね。このニオイをたどり、行き着いた先にあったモノはなにか。
それが「マイクロフィルム」だったのです。
若い世代の方々には、もしかしたらもう隣の惑星くらい馴染みのない話かもしれませんが、実は最近でも多くの企業で採用されていた「最強メディア」なのです。
では、ここでおさらい。なぜマイクロフィルムが「最強メディア」と呼ばれていたのでしょうか。ここでマイクロフィルムの特長について整理してみましょう。そして、「最強メディア」と呼ばれたマイクロフィルムがなぜ「お酢」のニオイを発するようになったのか、その謎に迫りたいと思います。

「最強メディア」マイクロフィルムの特長

1.被写体を1/10〜1/30程度に縮小撮影可能
かつては情報量の拡大=縮小撮影が主流でした。
2.2種類のフィルム仕様
16mm幅と35mm幅という2つの仕様が存在。用途によって使い分けられており、35mmはより精細な解像度が求められる新聞や古文書の保存、16mmは台帳保存などに用いられていました。
3.多彩な媒体形式
映画フィルムのようなロール式が基本ですが、使い勝手を良くするためさまざまな形式が取られました。以下はその一例です。
カートリッジ
自動コマ検索が可能。契約書、台帳、小切手の保存などで採用。
マイクロフィッシュ
1枚のカードにマイクロフィルムのコマを碁盤目状に保存。綴り書式の保存などに採用。
アパーチュカード
1枚のカードに1コマを貼付。概要情報などを記入可能。標本情報保存などで採用。
4.「永久媒体」としての認証
マイクロフィルムは1992年にISOを認定する国際標準化機構(ISO)が「マイクロフィルムに期待できる寿命は500年」と認定。世界で認定される唯一「永久保存性」が認められた媒体です。

マイクロフィルム変死事件!?

これほどまでに世界から信頼を得ていたマイクロフィルム。それが倉庫や資料室にしまい込まれているうちに、異臭を放つ物体に変化していたこの事件。さらに詳しい証言を集めると、マイクロフィルムにはさらに大きな異変が起こっていることがわかりました。
なんと、フィルム自体が大きく歪んだり、縮んだり、ひどいものでは溶解・癒着が発生していたのです。触ってみると、フィルム全体がベッタベタ。そして確かに鼻を突く酸っぱいニオイがしています。まさにマイクロフィルムの変死事件といった様相です。
一体誰が、何のためにこんなことを…。
実はこれが「マイクロフィルム最大の危機」として世界的に報じられた「ビネガーシンドローム」という現象なのです。

フィルムが酢酸化する「ビネガーシンドローム」

「ビネガーシンドローム」とは、長期保存されていたマイクロフィルムなどのフィルムを構成する素材「セルローストリアセテート(TAC)」が湿気や熱によって化学変化を起し、酢酸化してしまう現象のこと。
この変化が起こる際に、フィルムは寸法の安定性を喪失。また画像を焼き付けている乳化剤も化学変化を起し、結果として曲がりや歪み、縮み、溶融、癒着などを引き起こしてしまうのです。
「ビネガーシンドローム」を起こしてしまったフィルムは、再生機によるプレビューはもちろん現像なども不可能。もはや復活させるすべはありません。マイクロフィルムをはじめとするフィルム類の致命的変質。それが「ビネガーシンドローム」の正体なのです。

「ビネガーシンドローム」が起こるフィルム

前項でも述べたとおり、「ビネガーシンドローム」を引き起こしているのは、1950年以降にフィルムベース材として用いられていた「セルローストリアセテート(TAC)」という物質です。
この物質を温度24℃・湿度50%の環境で約30年、30℃・湿度50%の環境では約15年程度でビネガーシンドロームが発生すると言われています。これが35℃・湿度70%の環境ではわずか6〜7年程度で発症するという報告も。TACベースのマイクロフィルムでは、これまで信仰されていたマイクロフィルム永久媒体神話は完全に崩れ去ったといって過言ではないのです。※

※1890年当初に用いられていたのはニトロセルロース。その後1950年頃からはセルローストリアセテートが用いられました。しかしこれらセルロース系ベース材の可燃性や自然発火の可能性が露見。1990年ころからはすべて「ポリエチレンテレフタレート(=ポリエステル=PET)」に差し替えられました。PETベースのフィルムでは、こうした「ビネガーシンドローム」は発生しないと言われています。

TACフィルムが密閉状態でビネガーシンドロームを起こす環境と年数

温度 湿度 発生年数
24℃ 50% 約30年程度
30℃ 50% 約15~20年程度
35℃ 70% 約6~7年程度

「ビネガーシンドローム」を防ぐ方法

こうした致命的変質となる「ビネガーシンドローム」を防ぐためには、マイクロフィルムを保管する場所の環境を整えておくしかありません。
企業内でマイクロフィルムが収蔵されている場所は、最初に「異臭を感じた部屋」といわれるところが多いかもしれません。こうしたところでは常に空調管理を徹底し、室内の温度や湿度が上がらないよう状態管理しなければなりません。
マイクロフィルムはクッキー缶やパウチ袋、ビニル袋などで密閉状態になっている場合がほとんど。こうした密閉環境にあるマイクロフィルムは、定期的に取り出して再生し、外気に触れさせることが重要です。
また、マイクロフィルムは再生機がないと閲覧できないことから、金融関係企業では「マイクロフィルム室」を設けているケースが多いと考えられます。こうした専用の部屋は窓がない場合も多く考えられます。こうした場合は換気が非常に難しく、また膨大な所蔵フィルムのすべてを開封していく作業には膨大な労力とコストが必要となってしまいます。
結論として、なかなか「ビネガーシンドローム」を防ぐことは難しい、と言わざるを得ません。

各企業が実践する「ビネガーシンドローム」の危機回避方法

このように、マイクロフィルムを活用しつづけるということは、多大なコストを支払うことに他なりません。このような状況から、いま多くの企業では「マイクロフィルムをこのまま活用し続けるか否か」についての検討・判断に入っています。マイクロフィルムは再生機のある場所でしか情報に触れることは出来ません。こうした「場所に依存した情報圧縮方法」が、インターネット社会となった現代に相応しいのかどうか。こうした点も含め、企業としてより多くのメリットがある媒体はどれなのか。多くの企業が判断を求められているのです。

マイクロフィルムのビネガーシンドロームの関係

  • 「ビネガーシンドローム」はマイクロフィルムのフィルムベース素材が酢酸になっていくことで発生。
  • 発生するとフィルムに縮み、歪み、曲がりが発生し情報再生が不可能に。
  • 発生したが最後、フィルムは復活再生不能。
  • 防止方法は換気と開封。
  • しかし人件費等の問題から「マイクロフィルム廃絶」という検討も必用。
  • マイクロフィルムを電子化しPC閲覧可能にすればより大きなメリットが得られる可能性大